ぐちゃぐちゃに腐った物体A




生きている価値の無い人間って本当にいるものだ。
目の前にいるこの男がまさにそれ。
「時ちゃん今日はなんか機嫌悪いね」
「……」
この魅惑的な瞳と女みたいに綺麗な顔とルックスで、女の心と身体を弄ぶ最低男。
「学校で何かあったの?」
私は殺意を気取られない用、できるだけ何気ない声で答える。
「別に──それよりあんたこれから家にまっすぐ帰るの?」
「いや、今日中に片ずけないといけないことあるから、でも八時には家に帰るよ。今両親外国行ってていないから、よかったらそれから家に遊びに来る?」
「──今日は行けないけど、一応家の位置訊いて置いていい?」
「じゃあ待って今地図書くね」
内ポケットから手帳を出して家の地図を書き込む圭人の綺麗な横顔を、私は殺意を込めて睨みつけた。
愛してるから殺す。
そんな綺麗事は言うまい。
私は殺したいからこのクソ男を殺すのだ。
この最低の腐ったゴミ男を片ずけて世の中を少しでもクリーン化してやるのだ。
もうそうせずにはどうにも気が済みそうにない、ただそれだけだ。

それにどうせ一人殺すも二人殺すも三人殺すも四人殺すも何十人殺すも同じだ。
「っていうか時子お前殺し過ぎ」
「知らないのあんた? 一人殺せば殺人者だけど、百人殺すと英雄だって言葉」
相手の顔さえ判別できない様な闇の中、私、夜野時子と御堂霧也は他人様の家に無断で上がりこみ、居間のソファの陰に身を潜ませていた。
「それじゃあお前は英雄になるという高邁な目標の為に人を殺してるという訳だ」
「まさか、でもどうせやるなら半端は良くないってのはあるよね」
「半端ねぇ」
「あんたこそどうなの? 霧也、将来官僚目指して東大受験する予定の優等生が、なんで夜は泥棒稼業なの?」
「なんでって訊かれて答えられる様な質問じゃないけどあえて理由をつけるなら」
「なら?」
「生まれたっての泥棒だから」
「つまんない」
「やっぱり? 『そこに豪邸があるから』のどっちかにしようかと今超悩んだんだよね実は」
と、そこで軽口叩いてた霧也の目に緊張が走り、
「シッ」
急に指を立てた。
私も玄関のあるドアの方向へ視線を向ける。
鍵を差込み回す音がする。
どうやら『標的』が家に帰って来た様だ。
ノコノコとそう、私に殺される為に──

それから三時間後──
「英雄になり損ねたね時子」
「うるさいっ」
私は全裸でベットに両手両足を手錠で繋がれ、霧也も目隠しされ椅子にぐるぐる巻きにされていた。
「大体なんで裸な訳っ──」
「マジで? 今時子裸なの?」
「あぁっ…もう忌々しいっ」
意識を取り戻してから散々手足を引いたり揺すったりしてみたが、手錠は外せそうになかった。
「はぁ…この目隠しさえなければ今から行われる時子の××××で×××される×××なプレイが見られるかもしれないのに」
「あんた今の状況わかってる?」
「わかってるからせめて冥土の土産にと思って」
「お願いだから死んで」
「言われなくても秒読みでしょう?」
「──」確かに霧也の言う通り、殺されるのは時間の問題かもしれなかった。
「しかし本当にこの部屋スゲー悪臭だけど何の匂いなの? 俺吐きそう。」
暗く閉め切られた密室の中、生ゴミを酷くした様な耐え難い悪臭が充満している。
どうやらここは地下室の様だ。湿った空気の中、上方の小窓から月明りが帯になって差し込んでいる。
その帯に天井から吊るされてる物体が照らし出されている。それは腐っているがよく見ると私も持っているある物にとても似ている。可能な限り上体を起こして見下ろした床に沢山転がってる物体も──似ているどころか段々目が暗闇に慣れてくるにつけ、まさに「その物」にしか見えなかった──
「霧也、世の中にはね、知らない方がいいって事があるの」
「何だよそれ──何の匂いなんだよ?」
「あえて言うなら、未来のあんたと私」
「……」
答えを言ったも同然の私の言葉に、霧也が絶句した。
「畜生、なんでこんな事に…」
泣きそうな情けない声で霧也が言った。
その時。
ガチャリ。
地下室のドアが開いた──
あるいは地獄の入り口が──

「やぁ、時ちゃん待たせたね」

反吐が出る、虫唾が走る。
この最低のサディスト男。
「しかし不思議でたまらないな。不意の訪問はとても嬉しいけど──なんで時ちゃんはこんなナイフ持って、僕以外の男と仲良く僕の家の居間なんかに隠れていたのかなぁ?」
私の繋がれているベッドを見下ろし歌う様な声で語りかけてくる穂田圭人の手には私の愛用のサバイバルナイフが握られていた。
私はうらめし気に睨みつけた。
「死ね、カス」
私がぺっと吐いたツバをよけた圭人が 愉快そうな声を上げる。
「おっと、許しを請わない訳?」
「馬鹿らしい、この部屋の有り様を見れば許しを請うのがあんたを逆に喜ばす行為だって事がわかるつーの」
「時ちゃん僕を勘違いしてない?」
「部屋中にバラバラ死体転がしてるこの状況で何を勘違いするってーの?」
そう、天井から吊るされてるのは腐った人間の腕。床にも腐敗した人体の部品らしき物が沢山転がっている。その数からして一人の人間の物ではない様だ。
「あはは」
圭人がさも楽しそうな声を上げた。
それから身を屈めると、
「そんな時ちゃんも可愛い」
甘い声で私の耳に囁きかけた。
私の全身が気色悪さに粟立った。

私がなぜこの最低の蛆虫男を殺しに来たか。
それは裏の顔は殺し屋だが昼は極めて清楚な女子高生であるこの私『夜野時子』が、ある日学校の廊下でいきなり告白され、顔がいいから即交際OKした相手この穂田圭人が、二股どころか三股四股五股してる様な最低の女たらしだと判明したからだ。

発覚したのは交際三日目、つまり今日の昼休み。
私は珍しく学食じゃなくクラスの女子と机をくっつけ、教室内で弁当を食べていた。
「普通に皆知ってるけど」
冷たいクラスメイトの告発。
「うん、有名だよ、穂田先輩。来るものは拒まず、去るものは追わず」
「あ、でも自分から告白したって話初めて訊いたかも」
「そうだよ、時子、そういう意味じゃあんた特別かも」
クラスメイト達の無神経な言葉に怒りと恥辱のあまりわなわなと震えながら、その場で持っていた箸をぼっきり折って、私は内心地獄の音声で絶叫した。
(そんなんどーでもいいわー!!)
いいわー。
いいわー。(エコー)

この私をコケにするなんて万死に値する。

それでその夜のうちに、裏の世界の知人の知人で偶然にも同じ学校の御堂霧也を誘って、というか脅して、家の鍵を空けさせ、穂田圭人をぶっ殺す為、この『地獄の天使』が舞い降りてきてやったという訳だ。
圭人の両親が今外国へいるという話は学校帰りに本人の口から訊いていた。
誰もいない家で、ゆっくりたっぷりと私をこけにした報いを与えてやる予定だったのに──

こんな展開有り得ない。
あいつは玄関から居間に入ると暗闇の中私のナイフを交わして羽交い絞めにしようとする霧也の身体に当て身を食らわせ、早業で懐から出したスタンガンを当てて逆に私達を気絶させたのだ。
それで気がつけばこの地下室でこの状態だったという訳だ。
なんて鮮やかな手並みだろう。
霧也はともかく、代々裏の世界で殺し屋稼業をして来た夜野家の三番目の娘であるこの私までを返り打ちにするとは──
あぁまだ私修行が足りなかったみたい。
この世界でのミスは死に直結するとママが言ってたっけ。
まさにこれがそれだ。

これから私はこの部屋のあちらこちらに転がるグロテスクな物体と同じ姿になるという訳だ。
肉は骨からはがれどろどろに腐り落ち、人間様から単なる悪臭を放つ物体となるのだ。

「あんたがこんな変態の××××だったなんて」
私はつくづく自分の運命を呪った。
まさか自分がつきあっていた相手がこんな猟奇な異常者だったとは。
圭人はなぜ許しを請わないのかと聞いたが、殺しの調味料になってサディストである相手を逆に楽しませるという理由も確かにある、だがそれだけではない。
今まで私が殺して来た人間があちら側で私を見ていてそれを許さない気がしたからだ。今までいかなる命乞いも受け付けずに冷酷に人を殺めて来た私には命乞いをする資格がない。
ここはどうにか自分で切り抜けるか、誇り高く、今までの報いとして殺されて死ぬしかない。
だが、両手両足を手錠でベットの枠に固定されていては、自分でどうにかする方はどう考えても却下だ。
思えば、16年間短い一生だった。
英雄に本当になり損ねてしまった。
女の敵という前にこの猟奇殺人者を殺す事は本当に世の中の為になったのに。
まぁそんな大儀名聞本当は必要ないけどね。
私も『生まれ立っての殺し屋』だから。

「白くて綺麗な肌だね」
ナイフの冷やりとした感触が私の肌の表面をすべってゆく。
「殺すなら早く殺せ、糞が」
「口悪いんだね、時ちゃん」
「ねぇ、時子の彼氏さん、なんで俺目隠しされてんの?」
霧也が冥土の土産欲しさに椅子から抗議をもらす。
「そんなの、時ちゃんのこの美しい身体を他の男に見せたくないからに決まってるだろう?」
「なるへっそ」
「よく言うよ、この五股男」
足が手錠で固定されてなかったらこの糞男の股間をけり上げてやりたいところだ。
「そっか〜時ちゃん」
圭人は私の言葉に嬉しそうな声を上げた。
その瞳が喜色で輝く。
「何が?」
「嫉妬したんだ」
「ばばばば」
「だから殺しに来たんだ」
「馬鹿いってんなっての! 誰があんたみたいな見た目だけの中身スカスカ男を」
「馬鹿だなぁ、時ちゃん」
「あんたに言われる筋合いなんて──」
ふっと鼻で笑う音がして、圭人が懐かしそうな声で語り始めた。
「だって馬鹿だよ、僕はこんなに君が好きなのに──そうあの夜初めて君を見た日から」
「あの夜?」
何の事を言ってるのだろう?
「そうだよある夜君を見た、月の明るい夜、可愛いコが夜道を歩いてるなって思って見ていた。君は公園の中央を通り抜ける時男とすれ違った。と、その時、鮮やかに銀色のナイフをまるで羽を一振りにする様に閃かして、次の瞬間男が地面に倒れた、君は返り血を浴びるより先に通り抜けた」
「──」
何を──
何を言ってるのこの男──殺しの現場をまるで見た様な──
愕然として私の肌でナイフを遊ばせている圭人を見上げた。
「あの時僕は思ったんだ。何を思い悩んでいたんだろう。殺しなんて簡単だ。僕はその足で両親を殺しに行ったよ。眠らせてから、この地下室で、ほらそこに転がってるのがそれだよ見えるかな?」
「げ、お前の親かよ、このスゲー悪臭の源は」
「有り得ない見られてたなんて!」
私は叫んだ。
そんなヘマ、そんな確率、そんな偶然有り得る訳がない。
「それが有り得たんだよ」
「大体いつの事それ──」
「半年前」
「──」
「身に覚えあるの?」霧也に訊かれどきっとする。
確か半年前ぐらい前に完全な私情で二人ぐらい殺した覚えがある。
その時の殺しの現場の一つは確かにここの近くの公園だった気はするが、この私が他人の気配を見過ごす訳もないし──
「望遠鏡だよ」
「え?」
「僕天文学部だし」
「って何地上見てんだよ」霧也がつっこみ入れる。
天文部だったのか、知らなかった。
「時ちゃん知らなかったでしょ?」
私の心を読んだ様に圭人が言う。
「あの時からずっと僕は君に恋をしていたが、だけどうちの高校マンモス高だから後輩の中に君がいるのはつい三日前まで気がつかなかったよ。僕は気がつくとともに即座に君を捕まえ告白した──でも月が照っていたとはいえ姿見たの夜だし、見えたと言ってもはっきり顔とか見えた訳じゃないから、内心似てると思っただけで人違いなのかな? とか今日まで自信なかった──けど、今回の事でまさに君があの日の彼女本人である事が証明されたという訳だ──」
それが廊下での告白の真相だったのか──
「話戻ってすまねーけどなんで親殺しちゃったの?」
椅子の上で身をよじりながら霧也が疑問の声を上げる。
「色々家庭の事情があるんだよ」
要約して答える圭人。
「ってはしょるなよ。 殺される前に教えてくれよ。これじゃ気になってとても死に切れねーよ」
「長い説明をすると──」
前置きを言って、圭人は語り始めた。
「耐え切れなかったんだよ、親に抑圧され生きるのが。母親は僕を支配したがり、異常な愛を注ぐし、父親は父親で小さい頃から僕を上から押さえ付け何かと言うと体罰さ、この部屋で、教育という名の暴力、父親をロクに止めもしない癖に怪我をすると必ず母親がそれを舐めてくれたよ。耐え難かった、狭く押し込まれて生きるのが。母親へのあてつけにいっぱい女の子とつきあってたんだけど、案の丈母親、嫉妬に狂ってしまって、家に来た彼女に酷い嫌がらせするし、ネグリジェで俺の部屋に夜来るし、父親は女と遊ぶ暇あったら勉強しろってうるさいし、前髪は長い髪は染めるな、シャツの裾はズボンに入れろって僕学内トップだし、服装も特に派手じゃないし、なのにそんなの不条理だし。この先生きていても人生ずっと親に干渉され続けるのかなと思って」
確かに長い説明だった。
「でも時ちゃん、君があんまり人を簡単に殺すから、思い悩んでいたのが馬鹿らしくなってしまったんだ」
急に明るい声を出して圭人が言った。
「……」
「正直時ちゃんに殺されるなら本望なんだけど、まだ死にたくないし」
胸から腹、ふとももへ、ナイフの腹が移動してゆく。
「──」
「悲しいよ時ちゃん──」
そう言って、圭人が笑って何か言いかけた瞬間。

ドサっ──いきなりその身体が私に覆いかぶさって来た。
「きゃあっ」
犯される。
そう思い、 私は必死に圭人の身体の下で身をよじらせて全身を大きく振すって足掻いた。
手足が自由にならないのでそれが精一杯の抵抗だった。
「いやぁ、止めてーっいゃああぁぁあぁっ?!」
こんな男に殺されるのも嫌だが、犯されるのも絶対に嫌。
こんな嘘つきの最低男。
廊下で声を駆けられ、腕を掴まれて、一目顔を見た瞬間から──
この美しい悪魔に魅了されていた。
愛してるよという囁きに舞い上がっていた。
愛してるよ、君だけだっていったのに──
全部嘘で私の心ををもて遊んでいたなんて許せない。
他に沢山女がいたなんて──
こんな男に弄ばれた挙句犯されて殺されるなんてあまりにも──あまりにも惨め過ぎる──
私が悔しさで泣きながら、全身で悲鳴を上げていたその時。

「何やってんの?」

上から霧也の声がした。
「へ?」
涙目を空けて見ると、霧也が面白そうな顔で私を見下ろしていた。
ポカーンをしてにいる私に霧也は、手をパンパンとさせて、
「時子の彼氏、話長過ぎ、普通するでしょ? そんだけ時間あれば縄抜け、一応俺泥棒だし」
フンと鼻を鳴らした。どうやら霧也は身体を動かし、椅子と一緒に縛り付けられていた縄を序々緩めて解き、背後から話に夢中になってる圭人の後頭部を殴ったらしい。
「・・・・・」
「さてと」
顎に指を絡め、霧也が私の上にのしかかったままの圭人をマジマジと見下ろす。
「これどう料理する?」

「どうするもこうするもそんなの──」

「うんうん」
霧也がうなずきながら訊く。
「別れるに決まってるでしょ」
「それだけかよ!!」

だって、だって、なんか──
拍子抜けしてしまった。

「なんか急に馬鹿らしくなっちゃって」
「殺されかけたのに?」
「……」
「ひょっとして時子さ、考えたくないけど、この頭の螺子が一本も二本も足りない彼氏に惚れてるとか?」
「ば、馬鹿いわないでよ! んな訳ないでしょ! こいつが五股男である事実は変わりないし!」
「じゃあ殺したら?」
「それは──ってそんな事より早くこいつどけてよ!」
私の身体の上で気絶している圭人の身体は重いったらありゃしなかった。

「五股じゃないよ」
「げ」
むくりとその時、霧也に殴られた後頭部を抑えながら圭人が身を起こした。
「意識取り戻すの早っ」霧也がぎょっとする。
「父親による体罰で殴らるのも気絶するのも慣れてるから」
「そういうもんか?」
「それより時ちゃん思い違いをしているよ、さっきも言いかけたけど、そんな勘違い悲しいよ…確かに急に君に告白したから、他の女子と別れるのが間に合わなかったのは事実だけど…君は今までの相手と違う、初めて本気で惹かれてつきあいたいと思った相手なんだ…だからちゃんとけじめをつけたよ…今日つきあっていた最後の相手と別れ終わったんだ…全員と別れるのに三日かかったけど、今は時ちゃん君だけだから…お願いだから勘違いしないで欲しい──」
そこで圭人は一呼吸置き、
「 捨てないで──」
言って私の体に取りすがってきた。
圭人の言葉に──背後で再び殴りかかろうと構えていた霧也が、コケた。

かくして私はぐちゃぐちゃに腐った物体になり損ね、霧也は「くだらない痴話喧嘩に巻き込むな」と散々愚痴って帰って行った。
残った私は悪臭の巣である地下室から、服を着て再び居間に戻り、圭人と並んで先刻隠れていた居間のソファに座っていた。
「全く、殺す気ないならなんで全裸に脱がせたの?」
「いや、時ちゃん殺し屋だから、手足繋いでも服とか靴とかから飛び出し道具とかワンタッチで出て来て、殺される様な気がして──」
映画の見過ぎだ。
「私てっきりあんたを変態の猟奇殺人者かと思ったんだから」
「酷いな──」
「酷いも何も実際両親殺してるし──」
「それを言われると非常に辛いんだよね」
言って圭人は苦笑した。
「ところで他の女と別れたって本当でしょうねぇ?」
私は改めて追及した。
「勿論だよ。元カノの名前全部教えるから、一人一人に明日学校で聞いてみなよ」
「そんな恥ずかしい事できる訳ないでしょ!」
「なんなら、全員殺してあげようか──特に何の愛情もないし」
「馬鹿、捕まる。それに地下の死体、あれなんとかしたら?」
「あぁ、あれね」
「なんで腐らせてんの? それにばらばらにしてなかった?」
「うちの親の事だから殺しても生き返ってきそうだから──念には念を」
「何それ? わけわかんない…とにかく片ずけないと別れるから」
「片ずけたら別れないんだ?」
「それは──」私は口ごもってから「今後の行い次第かな」
柄にもなくちょっと照れる。
「何でもするよ」
「何でも?」
見返す圭人の魅惑的な黒い瞳に──私は序々に吸い込まれる様に引き寄せられて行った──
「一生奴隷に成るよ時ちゃん」
「それは──」
言葉の続きはくちずけで遮られた。
( 悪くない条件ね)

──取りあえず今回はこのどうしようもなく救いがたい悪魔は片ずけそこなったが、地下室の生ゴミが綺麗に片ずくということでよしとしよう──


──完──

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